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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります

第4話 南の商人
「実はの。アウルの領都、ブラックベリーには誰もおらぬぞ」
「そ、そんな……。人口が千人程度ある城壁都市と聞いてましたが」
「かつてはそうじゃったがの。アウル辺境伯と聞いてわらわは名誉職と思っておったのじゃ。最近では、アウルを訪れた者もほとんどおらんはずじゃ。わらわですら現状は詳しく知らんくらいじゃからの」
「お兄様」
「ハヤト様、やばいっす」
「そういや最近、ブラックベリーに立ち寄ったとかいう商人がおったの。すぐにでも引き合わせるゆえ、ハヤト殿らはゆるりと休まれるがよいぞ」


◇◇◇


「初めまして、辺境伯様。キール様より紹介を受けましたドランブイと申します」

 翌日。俺の元に、すらりと背の高い犬耳女性が訪ねてきた。
 色白の小顔に大陸では珍しいつややかな黒髪。落ち着いて丈の長いロングドレスがよく似合っている。
 ドランブイはキールの御用商人で、大陸南部で手広く商売をしているそうだ。
 俺はモルトとセリスを呼び、アウル領について最新の情報を仕入れることにしたのだが……。

「アウル領ですか。何からお話ししていいか……ただひとつ言えることは、あそこには、砂漠と湖しかありません」
「ブラックベリーの街はどうなっているんだ?」
「そ、それが……」

 俺の問いかけに、申し訳なさそうに口ごもるドランブイ。

「辺境伯様。実はブラックベリーには住民がひとりもおりません。数年前までは千人以上いた街なのですが、急に病が流行りだしまして」
「病だと?」
「はい。悪性の風土病です。これにかかると、手足がしびれて歩けなくなります。昔からある病だったと聞いておりますが、それが急に流行り出しまして」

「ふむ……」

「住民は、この土地のせいだろうということで、全員街を出ました。何しろ王都の医師からもこの風土病は、この地を離れるしかないと言われたそうですから」

 アウル領には、ごく小さな集落はあるらしいが、ブラックベリー以外に街はないという。なんだか辺境伯というより、開拓民にでもなったような気分だ。

「ハヤト様、王都で聞く話と違い過ぎるっす。これはきな臭いっす」

「モルト様の言われるように、何らかの情報操作がなされている気がします。辺境伯様お気を付けを」
「じゃあアウル砂漠はどんな感じっすか? 砂漠を越えることさえできれば、王都まで近くて何かと便利なんすけど」

 大変な事態だというのに、もふもふ尻尾をふりふりどことなく嬉しそうなモルト。ドランブイから丁重に扱われたのが嬉しかったようだ。

「アウル砂漠は大陸でも一番過酷な場所とも言われています。日中は灼熱の陽光が降り注ぎますが、夜は水桶に氷が張るくらいに寒くなります。おまけに砂嵐が多く、すぐに地形が変わります」
「では、砂漠を渡ることは難しいんだな」
「はい。ソフトシェルと呼ばれる猛毒の赤サソリや、ハードシェルと呼ばれる巨大な青サソリが多くいますので、野営自体が危険です。大陸北部からブラックベリーに行くには今も昔もインスぺリアル領を通らないと行けません」
「他にいい抜け道はないんすか?」
「あとは大森林を行くルートくらいですが、あのドラゴンだらけの森を抜けるのは、砂漠越えより難しいと思いますが」

「ふむ。では湖についてはどうなんだ?」」

 このアウル領は、奥に大きな湖を抱えている。名はカルア海。湖なのに海というのは広大な塩湖だからだ。
 俺も幼いころ祖父に連れて来てもらったことがあるが、当時は本当に海だと思っていたものだ。

 このカルア海にはいくつかの河が流れ込んでいる。東の山岳地帯を源流とするノイリー河上流一帯を治めているのが、キールたち山エルフなのである。
 彼女たちは多くの船舶を持ち合わせており、カルア海はもとより三本の大河とその支流一帯を自由に航行していることから、最近では海エルフと呼ばれているくらいである。

「私が、ブラックベリーの街を訪れたのは、一か月ほど前になります。辺境伯様が向かわれるなら、ご案内いたしたく思います」
「いろいろ迷惑かけるだろうが、よろしく頼む。ところで、俺のことは辺境伯じゃなくて、ハヤトと呼んでくれ」
「そんな恐れ多い……。私のような卑しき素性の者に、もったいないお言葉です」
「卑しいって犬人族のことか?」

「それもありますが……実は私は子どもの頃、さる大貴族の奴隷だったのです」

 そう言うと、ドランブイは立ち上がり、俺の正面に来た。
 足を肩幅に広げると、震える手でロングドレスのスカートをゆっくりとたくし上げたのだった。
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