設定を選択してください。

チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります

第27話 特別試合
「次の特別試合について、ご案内させていただきます。ただ今、大会優勝者のパンデレッタ選手なのですが、先ほどのハヤト選手との決勝戦におきまして、負傷されたため、特別試合には出場出来ないとの連絡が入りました」

「ブー~‼」

 この日、コロシアムにはじめて鳴り響いたブーイングが、次の瞬間大歓声に変わった。

「『剣聖』ジーク=モンド様は、ならば準優勝者であるハヤト=トーゴ選手と戦いたいとのことです。そ、そして……ハヤト選手より今すぐ戦わせて欲しいとの返事がありました!」

「ただ今より、特別試合を行います」

「うおおおおおおお~!」
「ハヤト様~!」

 コロシアムの熱狂はこの日最高潮に達したのだった。


◇◇◇


「ハヤト様……」

 王女専用にしつらえられた特別観覧席では、イザベルが祈るような気持ちで試合を見守っていた。

 いつもどおり、何の気負いもなく素振りをしているハヤトの姿にひとまず安心したものの、相手は『剣聖』と呼ばれる強者だという。イザベルは小さく頭を振ると、両手をぎゅっと握りしめたのだった。

 試合が始まると、両者はゆっくりと歩み寄ったものの、互いの間合いに入る手前で互いに動きを止めた。


 そのまま一歩も動かない。


 刻が止まったかのように感じられた刹那、静寂を切り裂くような気合がほとばしった。


「チェストー!」


 ハヤトの激しい踏み込みからの一撃に、シークは、わずかに体をずらせて躱していた。
体勢が崩れたレオンの懐に入り、そのまま剣を一閃。

“キーン”

 鋭い金属音が響いたかと思うと、ハヤト様は、派手に飛ばされた。

 静まりかえる場内。

「勝負あり。勝者『剣聖』シーク=モンド!」

「きゃー!」
「ハヤト様あ~!」
「うおおおお!」

 場内には、悲鳴の混じった歓声がこだましているが、イザベルには全てが敗者であるハヤトを讃える声に思えた。

 担架を断り、左手で胸を押さえながらも、一人で歩いて退場されるハヤト。
 この大歓声さえ、煩わしく思っているのか、静かに試合会場に背を向けた。

 そして、イザベルがハヤト様の姿を目で追っていると……どういう訳か、ハヤトは不意にイザベルの方を振り返り、まぶしそうに片目をつぶったのだった。

 バチバチバチ……! 

 そのとき、イザベルの全身に衝撃が走った。ひょっとすると、本当に音がしたかも知れい。


 目、目が合いましたわ!!  ウインクされましたわ!! 
あんな殿方、見たことがありませんわ~‼。


◇◇◇


 この日、試合の興奮からまだ収まり切れていないイザベルは、王宮に着くなりハヤトの周辺を探らせた。

「マリー!  マリーはいますか……。マリー!」
「は、はい、こちらに」

 すっと控えるマリーを一瞥して、安心したかのように、満足げな笑みをたたえるイザベル。

「ハヤト様の事を調べて欲しいのです。どんな小さなことでも構いません。と、とにかく詳しく、詳細にお願いしますわね」
「お任せを」

 イザベルは、マリーが退出してからも、しばらくその場でポーっと佇んでいたのであった。


◇◇◇


 翌日、マリーからもたらされた報告は、イザベルを喜ばせるものだった。

 紫髪の彼……ハヤト=トーゴ様は、グレン王国の辺境伯だった。アウル地方を領せられ、王国からは納税などの義務を免じられているとか。貴族というより、小国の国王のようなお方らしい。

「で、では決まった女の方はいらっしゃるのかしら」
「それが、独身で婚約者や特定の女性はいらっしゃらないご様子です」
「まあ、それは本当ですの。たくさんの女性が歓声を送ってましたけど……」

「ご安心ください。妹のセリス様や新たに仕えられたカール様が周りをがっちりとガードされ、女たちを遠ざけておられるとのことです」

 頼もしく言い切るマリーに、イザベルは自然と笑みがこぼれた。

「マリー、あの方の情報とは別にその妹君の情報も引き続き探ってください。分かっているわね……裏も表もですよ」
「はっ。必ずや!」

「はあ~辺境伯婦人か~」

 マリーは夢見心地で心の声をダダ漏れさせてるイザベルに頭を下げると、素早く任務に向かっていったのだった。
次の話を表示


トップページに戻る この作品ページに戻る


このお話にはまだ感想がありません。

感想を書くためにはログインが必要です。


感想を読む

Share on Twitter X(Twitter)で共有する