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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります

第13話 ヒィと添い寝
 モルトの悲鳴を聞いた俺たちは、一斉に走り出した。どうやら甲板からだと思われる。

 どうか、間に合ってくれ!

「モルト、大丈夫か!」

「れ、レオン様~!」

 涙目のモルトの目の前にいるのは、大型のドラゴン。あまりの恐怖に、わなわなと体を震わせるモルトを見据え、そいつは長い首を揺らしながら、ゆっくりと俺たちのいるガレオン船に向かって近づいてきた。

「ひいいっ~っ!」

「大丈夫だ、モルト。ライリュウはこちらから攻撃しない限り、何もしないよ」

 ふう~う。どうやら、間に合ったようだ。というより、最初から危険なことなんて無かったような気がする。

 前回の遠征で、大森林に生息するドラゴンたちの生態を知っている俺からすれば、いくら巨大でも、この種はそれほど危険が無いことを知っている。
祖父の文献で何度も読みこんできた。何でも大森林に生息するドラゴン中でも、もっとも大人しく人になつく種族らしい。ドランブイもそのことを知っているのか、落ち着いた様子。

 セリスは最初こそレイピアを抜き放って身構えていたが、すでに鞘に納めている。どうやら、ライリュウに敵意が無いのがわかったらしい。

 信じられないことだが、これだけの巨体にもかかわらず、首に斑点のような模様があるので、まだ子供だということがわかる。ちなみにこの斑点は、成体になるときれいに消えるらしい。ライリュウが持つ、有名な特徴なんだとか。

 おそらく、このライリュウは遊びに来ただけだろう。その大きな瞳からは、敵意も警戒も感じられず、純粋な好奇心に輝いているように見える。


 ライリュウは、甲板にいる俺たちに向かって、物珍し気に顔をゆっくりと近づけてきた。

「きゅるる~い」

 巨体に見合わぬ少し高めな鳴き声。そして鼻息なのだろうか。風圧も凄い。これでいていたずらっ子なのかも。体長は20メートルはあるだろうか。

 祖父の文献によれば、ライリュウは成体になると30メートルを超すものもいるという。目の前の巨大なドラゴンが、まだ子供で、しかもまだ成長期の最中にいるとは、全くもって恐れ入る。

「レオン様、怖すぎるっす~」

 最初は俺の方に近づいてきたのだが、ライリュウは、俺の後ろで尻餅をついたままのモルトに興味を持ったのか、そちらの方へ顔を寄せた。

「ひいいいっ~!」
「よかったなモルト。こいつはお前のことを気に入ったみたいだぞ」
「よくないっす~。生暖かい鼻息がお尻にかかって、怖すぎるっす~!」
「そんなに怖がらなくても、大丈夫だって。……って、あれ?」

 モルトはさっきから、頭を抱えて甲板にうずくまっているのだが、よく見ると、ライリュウはモルト本人より、尻尾に興味がある様子。ゆっくり顔を尻尾に近づけて、もふもふ成分を自分の顔一面にこすりつけている。

「ひいいいっ~!」

 何とライリュウも、もふるのか! 俺たちは今、ライリュウの新たな生態を発見したのかも?!

「大丈夫! こいつはお前と仲良くしたいだけみたいだぞ」

「本当っすか~」

 最初は怖がっていたモルトだったが、そのうち襲われないことを理解したのか、今では立ち上がって、おそるおそる、おっかなびっくりというような風に、ライリュウの頭を撫でている。

「モルト、お前にそんなになついているんだから、名前でも付けてやったらどうだ」
「何言ってるんすか。これでも恐いのを我慢してるんすよ。しかも自分の尻尾はべとべとっす~!」
「お兄様、モルトは「ひいひい」と言ってましたので“ヒイ”がいいかと思います」
「なるほど、さすがはセリス様です!」
「何適当なこと言ってんすか。最初は死ぬかと思ったんすよ~!」
「良かったな、ヒイ」

「きゅるる~ん」
「ひいいぃ~!」

 ヒイは嬉しそうモルトの尻尾にもう一度、顔をこすりつけると、ゆっくりと船から遠ざかっていったのだった。

「お、おい、あれ……」

 俺の指さす先に居たのは、体長40メートルを超すかと思われる巨大なライリュウの姿。首元を確認すると成体のようだ。

「きゅるる~ん」

 ヒイは、その巨大ライリュウを見つけるや、嬉しそうに鼻を鳴らして近づいていった。

「きゅるる~ん」
「きゅるる~い」

 二匹のライリュウは、しばらくお互いに首を絡ませながら鳴きあった後、連れ添う様に大森林の奥地に消えていったのだった。

◇◇◇

「ラプトルの仕掛けは、明日もう一度見にこよう。今晩は船に泊まるぞ」

 ラプトルは夜間の方が比較的動きが活発になるそうだ。俺たちが仕掛けた罠に、無事かかってくれるだろうか。

「おそらく、大丈夫でしょう」
「どういうことだ?」
「ラプトルは、船の中にいる俺たちに必ず気付くでしょう。夜陰に紛れて、多くのラプトルが近づいてくるはずです。明日は大漁かも知れません」
「そ、それって、自分らが餌になるってことじゃないっすか~!」

 モルトは、震えながら俺の上着の裾をつかんでいる。

「レオン様~」
「船の中に居りゃ大丈夫だって!」
「恐いものは、恐いっす~!」

 しかもモルトは「どうみてもこの船の中で一番強いレオン様の傍が一番安全っす~!」と、俺の側を離れようとはしない。

「ドラゴンに襲われるくらいなら、レオン様の方がマシっす!」

「お兄様! けど……。ま、まあ……男性同士というなら特別に許しても構いませんが……」

 こら、モルト! 紛らわしい発言は控えるように! 
 セリスも真っ赤な顔して、変な想像してんじゃねえ~!

◇◇◇

「あのなあ、モルト……」

 俺はいいかげんうんざりしつつ、俺の寝巻の裾を離さないモルトに話しかける。

「いくら恐いからっていって、いいかげんにしろ。子供じゃあるまいし」

「……」

 結局、モルトは、俺のベッドにもぐりこんで離れようとしないため、朝まで一緒に寝ることになってしまった。全く! ビビるのにも程があるぞ! 何で俺は人生初の添い寝を男としなきゃならんのだ。

「……」

「おい、聞いてるか、モルト。あ、あれ……」

「ZZZ……」

「全く……」

 俺は、仕方なく隣で体を丸めて寝入ったモルトに、毛布をもう一枚かけてやったのだった。
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