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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります
第11話 船旅
「ハヤト様、実は……」
ドランブイは、申し訳なさそうにアウル領の収支報告書を広げてくれた。未来の記憶のこともあるが、今のままでは、アウル領は立ち行かないだろう。
何か我が領の名物になりそうな新たな産業を興したいのだが。
「レオン様。もうすぐラプトル用の檻を載せたがレオン船が到着するとのことです」
「よし、罠を仕掛けに向かおう。船がつき次第、すぐに出発するぞ!」
「レオン様~。大森林なんて行ったって何もいいことないっすよ~」
興奮気味にまくし立てる俺にどこか後ろ向きなモルト。
どうせ、ドラゴンが怖いからこんなこと言っているに違いない。
「大丈夫だ。あくまで大森林の入口までしか行かないから」
「本当っすか~?」
「安全だから、モルトとセリスもついてきてくれ」
「私はお兄様の護衛です。危険な所こそ連れていってください!」
「今後、ドラゴンの肉は、我が領の有力な輸出品になるかも知れません。私にも是非ご同行の許可を!」
「本当に大丈夫なんすかね~」
若干腰が引け気味な約一名を含む俺たち四人は、ガレオン船で大森林に向かったのだった。
◇
「いい風が出てきたな」
「本当っすねえ~」
俺の隣では、モルトも、目を細めて、もふもふ尻尾を気持ちよさそうに揺らしている。
ブラックベリーから大森林まで二泊三日。船旅は、すこぶる順調である。インスぺリアルの郷土料理に舌鼓を打った俺たちは、デッキで気持ちのいい風に吹かれながら、のんびりと過ごしていた。
「お兄様、何か飲み物を取ってきますね」
騎士官学校での生活が長かったせいなのか、セリスは基本的に何でも自分でしようとする。普通の貴族令嬢なら、誰かを呼んで取りに行かせるところなのだが。
「自分も何か食べ物を持ってくるっす」
モルトも、両のほっぺたを膨らませ、口をもきゅもきゅさせながら席を立った。お前、さっき食事したばかりだろうが! しかも、よく食べながらしゃべれるな。
呆れ気味の俺の視線をよそに、モルトはもふもふ尻尾を揺らしながらセリスの後を追っていった。
そして、二人になったのを見計らったように、ドランブイがすっと俺の横に近づいてきた。恥ずかしそうに短い尻尾を小さく揺らしている。
「時間もあることですので、ハヤト様のことをお聞きかせ願えませんでしょうか」
「ふむ……。ドランブイも知っていると思うけど、王国の貴族社会では、血統が何よりも重視すされるんだ。ウチはかなり浮いた存在だよ」
「噂では、祖父のサネユキ様は転移者だったとか」
「うん。そして俺はサネユキじいちゃんに育てられたんだ。確か『サツマ』とかいう異世界から来たんだと。おかげで俺は物心付いたころから無理やり異世界の剣術や勉強をやらされたんだけどな」
「ハヤト様……。王国の貴族様は私たち亜人と共存と言いながら、みんな心の中で見下されてました。口先だけの平等なのかどうかは、私たち差別されてきた者にはわかります。ですがハヤト様は……」
「ま、まあそれは、異世界の感覚が染みついているから」
「そんな……。ハヤトさまは、私がこれまでお会いしたどの貴族様とも違います」
「王国の貴族連中になじめないのはそのせいかもな」
「では、ハヤト様は、今後アウル領をどのようになさるおつもりでしょうか」
「とにかく早く自立したいさ。王国なんて頼らず、自分たちだけでやっていきたいよ」
「ハヤトさま。ならばこのドランブイを存分に使ってくださいませ」
「お兄様の好きなエールを持ってきました」
「つまみも調達してきたっすよ~」
この晩、俺たち四人は、心ゆくまで飲み明かしたのだった。
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