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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります

第10話 お見合い
「レオン様、失礼するっす」

 入植者の受け入れも無事終わった翌日、夕食を終えた俺は、執務室にモルトを呼んでいた。

「任務は完璧っすよ」
「さすがは、モルト! 俺の右腕だけのことだけはあるな!」

 満足気にうなずく俺。モルトには、人集めに加えて、領地経営に使える書物を探してくるように頼んでいた。俺もこちらに来るときに、本や資料をいくつか持ってきていたのだが、とても足りなかったのだ。

「そう、これこれ」

 俺は、お目当ての資料を手に取ると、興奮気味にモルトをさらに褒めちぎる。俺はずっとこの地に適した特産品を考えてきたのだ。

「よくやってくれた。これで、ブラックベリーは復活するかもしれないぞ!」
「そうかもしれないっすね」

 何やらモルトの様子がいつもと違う。やけにクールすぎないか。何か変な物でも食べたのだろうか。いつもなら、もふもふ尻尾をぶんぶん振りながら、自慢話をするはずなのに……。

 うん? そう言えば、本棚のこの辺りは、何やら雰囲気が違う。 

 明らかに不審なモルトに感じていた俺の違和感は、次の瞬間、確信に変わった。
 どう考えても、領地経営に関係ないようなモノが混じっているのだが……。

「おい、モルト! 何だこれ? 『女心のつかみ方』って」

 改めてその辺りの本を見てみると……。

『女性が喜ぶプレゼント大特集』
『プロポーズに使えるレストラン王都10選』
『幸せな結婚生活』
『出産なんて怖くない』
『楽しい子育て』

 ……。

 固い資料や文献の中に、明らかに場違いなものが紛れている。結婚や新婚生活についてだけでなく、出産や育児について書かれたものまであるのはどうしてだ!

「いくら何でも『マタニティードレス特集』って、そんなの誰が着るんだ!」
「これは将来必要になるっす!」
「領地経営には関係ないだろうが!」
「ハヤト様もトーゴ家の当主として、いつかは結婚していただかなくてはならないっす!」

 確かに貴族の家を継ぐ身として、結婚は避けては通れない問題であることは事実ではある。

「レオン様、実はっすね……」

 そう言って、モルトは何やら紙の束を取り出し、俺の目の前で広げたのだった。


◇◇◇


「ですから、レオン様、いい加減身を固めてもらわないと困るっす」
「いやそれは……。まだ、領地経営もままならないのに、急すぎないか?」
「そんなことないっす! ほら!」
「それに、この度の婚姻によって、トーゴ家は、王国内で大きな後ろ盾が得られるっすよ。ほら!」

 さっきから、モルトが「ほら! ほら!」と、俺に見せつけているのは、結婚の釣り書き。いわゆるお見合い写真。何と十人分もある。

「このご結婚さえ実現すれば、すぐにでも王都に帰れるかも知れないっす!」
「俺はそれが嫌だと、ずっと言ってるだろうが!」

「じゃあどうするんすか? ずっと、アウル領にいる気っすか?」
「そのつもりだけど」
「はあ~っ」

 俺の言葉を聞いて、あきれたように肩を落とすモルト。

「まさか、セリス様のこと本気なんすか……」
「え? い、いや……」

「お二人が仲いいのは知ってますが、いくら血がつながっていないとはいえ、妹君とご一緒になられるのは外聞が悪すぎるっす!」
「ていうか、内緒でこんなことを進めてみろ、セリスが知ったらどうなるか……」


「お兄様、お呼びになられましたか?」
「「げっ!」」

「二人ともどうしたのですか?」
「…………」


◇◇◇


 その後、俺とモルトは、何故か執務室の床の上で正座させられていた。目の前には、腕組みをして俺たちを見下ろすセリス。 
怒り心頭のご様子で、目にはうっすら涙を浮かべている。正直恐いのですが。

 それから、あの……。せめてノックしてから領主の執務室に入ってきて欲しかったです。

「お兄様! これは、一体どういう事ですか!」
「そんなの知るか! 俺もさっき初めて知ったんだぞ!」

 というか、何で俺が叱られてんだ?

「わかりました。モルト。全てをお話なさい」
「わ、わかったっす……」

モルトは俺の真剣な顔をつくると、ゆっくりと立ち上がって説明を始めた。

「……と、いう訳で自分は苦労に苦労を重ねて、レオン様の花嫁候補を探してきたんっす。ご成婚のあかつきには、王都に戻れるかも知れないっす」

 モルトは王都で、俺の婚活に駆けずり回ってきたらしい。何勝手なことしてくれてんだ!

「お兄様! 一体どうなさるおつもりですか!」

 一体、俺にどうせよと。

「レオン様が、どうしてもここで暮らしたいというなら、こちらへ嫁入りという形でもいい人もいるっす」

「お兄様!」

 だから、俺にどうせよと。

 と、ところで……。俺だけいつまで正座させられているのでしょうか。
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