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裏庭が裏ダンジョンでした
オークの女 1
「だからどうした、また貴様はオークを醜いと殺しに来たか?」
醜い? 確かに緑色だが胸にはサズァンに負けずとも劣らぬ塊が付いているし、顔もモンスターっぽくはない。
それ故に、特に醜いと言った印象を目の前の一人には抱かなかったが、その両隣はどう見ても豚のお化けのようだった。
と言ってもムツヤはその『豚』も小さな頃に絵本でしか見たことが無かったが。
オークと言ったらムツヤの印象にあるのは1つだ。
外の世界の本で何故か知らないがよく女騎士を襲って「っく、殺せ」と言わせ、その後色々と、色々とするモンスター。
もしくは、その状況に冒険者が割って入り助けると、ハーレムに女騎士も加わる展開になるアレ。
「えーっと、アレでずアレなんですよぉ! 私はえーっと別の場所って言ったらいいのがなー…… 多分別の世界から来たばかりでよぐわがらなくてー」
多分この世界のモンスターだろうと思ったが下手に手を出して怒らすのは避けたかった。
強さがわからない上に話すぐらいに知能がある相手。
しかも、攻撃の手段も武器で殴りつけてくるのか、意外にも魔法なのか、飛び道具を飛ばしてくるのかも分からない。
そして、相手は三人も居るのだ。ムツヤは言葉を紡いで相手の出方を見ることにした。
一番先頭にいるオークの、おそらくは女であろう者が、後ろで結ってまとめた栗色の髪を揺らしながらこちらへ近付く。
そして、剣先と殺意をムツヤに向けて質問をする。
「異国の者だろうと関係はない。何をしに来た」
「あのですねぇー、こっちにさっぎ結界から通っで来だばかりでしてぇ、怒らせだのなら謝るんで許してくださいませんか?」
ムツヤは両手を胸の前で開いて言った。
戸惑っていたし、恐かった。
モンスター相手の戦いであれば慣れたものだが、対人戦は経験がない。
サズァンと戦うことを渋ったのも、サズァンを好いてしまった事の他に、内心では人と戦う恐怖もあったのだ。
オークは互いに目を合わせる。
目の前の人間の言っていることが何一つ理解できない。
「とにかくだ、その剣に鎧、上質な物だろう、ただの冒険者ではないな? まずは武器を捨ててこちらに投げろ」
ムツヤは頷くと剣を女オークの元に放り投げた。
地面に落ちたそれらを女オークは自分たちの背後へ蹴飛ばした。豚のようなオークがムツヤに次の命令をする。
「次は鎧を脱げ。いや、ナイフでも隠されていたらたまらん、荷物と服も全て地面に置け」
鎧とカバンはまだ良いが、服を脱ぐのは流石に抵抗があった。しかしオーク達は剣と斧を構えて無言の圧力を掛ける。
月明かりに照らされながら外の世界に来て早々ムツヤはパンツ一丁にされてしまった。
サズァンから貰ったペンダントが胸元をひんやりと冷やし、そして最悪の展開に気付いてしまい、一瞬で血の気が引いてしまう。
「あ、あの、オーグさん、ひとつぅー…… いいですか?」
「なんだ」
ムツヤは今にも泣きそうな、震えた声でオークへと質問をする。
「ご、これから私はーあのーいわゆる『っく、殺せ』って奴んなるんでしょうか? お、おれ、外の世界で女の子とは、ハーレムしだかったのに、お、オーグに」
「何を気持ち悪いことを言っているんだ馬鹿者!!」
女のオークは顔を怒りと恥ずかしさで顔を赤くしてムツヤを怒鳴り散らす。
「貴様もオークは性欲の化物のように思っているのか、我らを愚弄するか、私は今にも貴様を斬り殺したくてたまらない!」
初めて祖父以外に怒られたムツヤはビクビクとしている。
パンツ一丁で。
しかし女のオークがムツヤに近付いた瞬間、ペンダントが光りだし、目の前の空間に褐色の美女であり邪神のサズァンを映し出す。
「ムツヤさっきぶりね、というより外の世界に出て早々にオークに裸にされるってどういう事なの……」
「何だアレは!」
女のオークは警戒して後ろに飛び跳ねる。
後方に居たオークの二人もお互いにその邪神の幻影を指差してざわついていた。
そんなオーク達を無視してサズァンは話し続ける。
「あのね、あんなオークなんてアナタの敵じゃないわよ? その裸のままで倒せるぐらいには敵じゃないわ」
「本当でずかサズァン様? いやでも流石に、あ、恥ずかしんであんま裸見ないで下さい」
ムツヤは手を前で組んで身を縮める。
そんな彼の周りをサズァンの幻影はぐるぐると回って舐めくりまわす様なアングルで見ていた。
「本当可愛い。あっ、背中にほくろあるのね。って、あらやだ、意外とこれ長く持たないわね、それじゃあねムツヤ」
そう言って目の前からサズァンの幻影は消え、どよめくオーク達にムツヤは語りかける。
「なんていうか…… 俺の方が強いみだいなんで…… 見逃しで貰えないですか?」
オークの女はギリリと口からはみ出す犬歯を見せつけて歯ぎしりをし、剣を握りしめる。しかしそれより先に飛び出したのは両隣のオーク達だ。
「舐めるな人間!!」
「待て、あくまで拘束が目的だ! 本当に人間を殺せば面倒なことに」
オークたちの斧は完全にムツヤを捉えていた。
しかし、ムツヤから鮮血が吹き出すことは無い。斧を余裕で避けたムツヤはそのまま右側のオークの顔を殴り飛ばす。
顔をひしゃげさせながらオークは宙を舞い、横の茂みの中へと消えていった。
あれとムツヤは思う。
オークってのはこう、屈強で、女騎士だって勇者だって苦戦する相手のはずだと。
目の前の連中は本当にオークなのか少し疑うぐらいに拍子抜けだった。
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