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果物マスター!~スキルで果物だけはポンポン出せます。果物を売って悠々自適に暮らしたいと思います~
第4話 みかん
僕は商売人見習いになった。
簡単な読み書き計算を学びながら、まずは商品の陳列と清掃作業をしていた。
宝石りんごの売り上げは上々だ。
いつも大道芸人によるたたき売りが行われている。
お決まりのパターンはこうだった。
1個銀貨10枚で売りに出すのだが、高すぎて売れずに大道芸人が勝手にダメージを受けていき、最終的に銀貨2枚で売るという芸だ。
観客や買い物に来た人たちも、それを分かっているので、笑いながら値段が下がるのを待っていた。
ところがどんなことにもピークがあるように、宝石りんごも飽きられてきた。
それでも銀貨1枚以上するものだから高級品には違いないが、大道芸人を雇うほどの余裕はなくなっていた。
定番化したともいえる。
その頃にはヴァーノンも読み書き計算をかなりできるようになっていた。
そろばんと言う道具を使いこなし始める。
ヴァーノンが店先で番をすることが多くなった。
◆
そんなある日の夜。
僕はいつも通りベッドで寝ると夢を見る。
白い部屋に居た。
デジャヴ感がある。
農夫のようなつなぎ姿の鼻が低い女性がいた。
「こんばんはヴァーノンくん。そろそろりんご飽きてきたでしょ?」
「あっ、これは桔梗さんお久しぶりです。でもりんごまだまだ高いですよ? 美味しいし」
「ふっふっふ、ヴァーノンくん。フルーツを広めると言う野望は始まったばかりなんだよ。今回紹介するのはこれよ」
桔梗さんの手に『ポンッ』と白い煙と共に、オレンジ色の果物が出て来た。
「これはオレンジっすか?」
「ぶっぶー、ちがいまーす。これはみかんよ!」
「みかん?」
「オレンジはまたそのうち紹介するわね。下界よりもっと美味しいのあるから。とりあえず今はみかんの紹介ね。こうやってね、皮を手でむけるの!」
桔梗さんはみかんの皮を手でむく。
そしてパクリと食べた。
「うん、やっぱり美味しい! ヴァーノンくんも食べてみて!」
桔梗さんはまたもや『ポンッ』と音を立ててみかんを出す。
僕がみかんを受け取って皮をむこうとすると、力を入れ過ぎて皮を破り、果汁が漏れ出てしまう。
「ちょっと力入れ過ぎね」
「オレンジより全然柔らかいんすね!」
慎重に皮をむくヴァーノン。
むきおわったらパクリと食べてみた。
「おおっ、すっぱいけどクセになりそうっすね」
「でしょー! 今度はこれを出すスキルをあげる! どんどん地上に種をまくのよ」
「やっぱり、僕たちが売ってるりんごも種が広がっているんですか?」
「当然よー! 他の農家や商人が黙ってるはずがないもの。本当は種無しってのもできるんだけど、フルーツを広めるのが目的だから全部種ありにしてるわよ」
「分かったっす。いっぱい売って種を広めるっす」
「じゃあそろそろ朝だからまたね~」
桔梗と白い部屋がうっすら消えていった。
◆
チュンチュンチュン……
朝日が部屋に差し込む。
「もう朝か、あれ? これはみかん?」
起きた僕の手にはみかんが握られていた。
「また夢じゃなかった!」
僕はみかんをいっぱい出すことにしばらく夢中になった。
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