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果物マスター!~スキルで果物だけはポンポン出せます。果物を売って悠々自適に暮らしたいと思います~
第1話 農業の天使
僕の名前はヴァーノン。ちょっとムサい男と言われる。
と言うのも毛深いからだ。
水面に映った僕の顔は確かに濃い。
毛深いし丸顔だし丸鼻だ。
まあ、ヒゲは剃っているんだけどね。
田舎出身の農家の三男坊なんだけど、継げる畑が無いのでリンツと言う街に出て来た。
仕事はドブさらいだ。
下水の沈殿池を掘っている。
詰まって下水を吸わなくなった沈殿池をさらに掘る作業に従事していた。
給料は一日銀貨一枚。
そんなに悪くない。
でも仕事はきつい。
肩も腰も痛くなるし、何と言っても臭い。
そのようなわけで、僕が働いている街の公衆浴場で汚れを落とした後に宿舎へ帰ると言う事を毎日のルーティンとしている。
今日も銀貨一枚もらって仕事を上がった後に、さっそく公衆浴場で汚れを落とす。
「ふぅ~生き返るぅ~」
汚れを落としてから湯に入る。
この後酒場へ行くヤツらも多いのだけど、僕はお金を貯めて何かしたいと思っていたので、そそくさと寝る。
昼間の労働の疲れか、すぐに眠りに落ちた。
◆
「ねえ、起きてヴァーノンくん!」
「ん? むにゃむにゃ? ここは、なんか白い部屋に綺麗な女の人? 農作業着かな? 長い黒い髪に黒い目って珍しいね! 鼻も低いね」
「はいはい、鼻が低くて悪かったわね! 私の名前は桔梗よ、よろしく! 農業の天使よ!」
桔梗さんって人はそう言って胸を張っている。
あっ桔梗さん胸は意外とあるのね。
灰色のつなぎのような服を着ており、麦わら帽子をかぶり、手は軍手をしている。
「農業の天使? うーんこれは夢かな?」
「そうね、夢だけど夢じゃないの。ここは天界よ。ずっと波長が合う人を探していたのよ~。あなた農業やっていたでしょ」
「ええ、まあ。いまはしがないドブさらいしてますけど」
「アタシ、下界って果物が少ないと思うのよね」
「は、はあ。リンゴの木ぐらいならウチの実家でも植えていましたが……」
「あんなちっちゃいリンゴだめだめ。まだまだスイーツとは呼べないわ。全然品種改良されてないじゃない! あたしが普及させたいのはね、もっと美味しくてあまーい果物よっ!」
「そんな果物あるんですかねぇ」
僕は桔梗さんを鼻で笑った。
「ふーん。じゃこれ食べてみる?」
桔梗さんが「えいっ」と言うと『ポンッ』と赤い大きな果物が彼女の手に出て来た。
「えーっと、すごく大きなリンゴですね。色艶もいいし甘い香りがする」
「でしょ~! これ食べてみてよ! 私がむいてあげるね!」
桔梗さんが果物ナイフで器用にリンゴの皮をむいて切り分ける。
そこへ小さなフォークを差した。
「はいっ、どうぞ。試食よ!」
「いただきます!」
ヴァーノンの口の中に広がる酸味と甘みの絶妙なハーモニー。
「う、うまい!」
「そうでしょう~。これを出すスキルをあげるから、ぜひ下界で売って欲しいんだ! 私の夢はね、この世をフルーツで満たすことよっ! あっ、そろそろ朝みたい。じゃあまたね~」
「わかりました。またね~」
まあどうせ夢だろう。
僕を憐れんだ気まぐれな神様が良い夢を見せてくれたんだ。
「う、うん? もう夜明けか」
僕は今日も労働が始まると思っていた。
しかし手にはリンゴが握られている。
夢で見たやつだ。
「えええー、夢じゃ無かった!」
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