なんかヤバいようだ。
天上の美少女エルフのエターニアさんの生着替えを見てしまったら、結婚して子供を作らないといけないらしい。
「そう、ですよね。こんなペチャパイエルフと結婚して、小作りなんて、嫌に決まっていますよね」
「正直、嫌ではないけど、まだ早いというか、なんというか、あまりに突然で」
「そうですか。私に気を使ってくれるんですね。うれしいです」
エターニアさんは悲しそうな顔のままニコッと無理にでも笑いかけてくれる。
そうじゃないでしょ。
おっぱいの有無も大事かもしれない。
でも美少女エルフってだけで、ほとんどの男は好きだと思うよ。
特に性格も悪いわけではなさそうだし。
「とにかく確認を。着替えといっても下着までです。別に見てはいけないものを、見てはいないはずです。面積的には水着と同じなんですから。大丈夫のはず、ですよね? セーフですよね?」
「分からないです、家に帰ったらお父様に確認してみます」
とにかく今は保留になった。よかった。
本当に結婚しないといけないとかになったら、どうしよう俺。
「それで、新人君、なんだっけ東門君だっけ、持ってきた服見せて?」
黒髪ロングの先輩が要求してくる。
俺は服を見せる。
上の半そでシャツのボタンはプラスチック製。ズボンはフックやチャックのないゴムと紐のみ。
「ああそうそう、私は春巻クレハ。そっちの茶髪はエリね。クレハでいいわ」
クレハ先輩が顔の前で指を振る。
「私たちは向こうへ行けば、お互い命を預けるパーティーになるわ。一刻を争う時、呼称は短いほうがいいの」
「それに将来はタニアのお婿さんになるんだから、ダチも同然だよねえ」
そして三人目、茶髪でナチュラルウェーブのかわいい子を前に押して紹介してくれる。
「クレハの紹介の通り。西山川エリ一年二組。よろ。エリって呼ぶこと」
見た目は三人の中で一番ハムスターっぽい、かわいさがあるけど、口調はぶっきらぼうだ。
あ、でも俺が返事をしたら、ほっぺを赤くして、目線をそらす。
これはこれでかわいいかも。
ぶっきらぼうというか、口下手、奥手タイプだな。
俺は先輩たちに見られながら、パンツとシャツになり異世界風のシンプルな白いシャツと茶色いズボンに着替えた。
俺はロッカーに私物を全部入れる。もちろんスマホもだ。
向こうでは、まだ電波のアンテナが入っていない。
金属の持ち込みも制限されていて、科学的な技術の発展は遅れ気味なのだそうだ。
今の生活水準でもある程度十分だし、魔道具でいいと思われているらしい。
俺たちは異世界風の衣装で職員室に寄る。
顧問の先生の机に着くと、書置きがあった。
”忙しいので、自分たちだけで行ってきてくれ。許可証は田中先生からもらうこと”
田中先生は隣の席の先生だ。
あっさり田中先生が許可証をクレハに渡す。
ちょっと顔が「しょうがないわね」みたいな感じだけど、いいのだろうか。
「新人君だっけ? 大丈夫よ、エターニアさんもいるし、部長もいるから」
「エターニアさんは常連だし、部長のクレハさんは異世界転移検定三級所持者だから」
異世界転移検定、なんともそれっぽいが「筆記試験」がある。
なんでも検定にして儲けようという行政の考えることは分かる。
俺はそういうのに屈したくないんだけど、三級以上の所持者が同伴でないと、通行できない決まりなのだ。
さて学校を出て、徒歩十五分。
田舎町で畑ばかりであったが、近年だんだん埋め立てられて発展しつつある。
その畑も昔は田んぼで減反された結果で、今はその半数が薬草のフェルクラ草だったりする。
そして到着、自衛隊の駐屯地だ。
正面ゲートで許可証と生徒証を見せる。
「お、なに。新人君? 四月だからそういう時期だね。辞めないといいね」
「こちらAゲート、ファンタジー冒険部四名。男性一名、女性三名、入ります。どうぞ」
無線機だ。今でもたぶん無線なんだな、と思うと感慨深い。
おじさんはニコッと笑うと、サムズアップしてくる。
そのまま芝生のある庭を見つつ道を進むと、ワープの建物が見えてきた。
現在、ワープ出口だったところは「ワープゲート」と呼ばれている。
ワープゲートは厚さ一メートルはあるコンクリートで覆われている。
銃を持った門番が六人。
再チェックされる。
扉係がボタンを押した。
警告音が鳴り、厚い扉が開いてく。
緊張気味にでも少し誇らしげにエターニアが言う。
扉の向こうには、魔法陣が光り輝いている。
部長のクレハがニタッと悪戯したみたいに笑う。
エターニアとは笑い方が違って、面白い。
まぶしいが、なんとか我慢して進んでいく。
ぶうううん。
まるで小説みたいだが、大まじめだ。
獣人の警備が五人。服装は部分鎧で冒険者風。
こちらも壁があるが、屋根はない。
空が見えている。
月がデカい。二倍ぐらいある。
「そうね。異世界メルキラプトル。神々が支配する、剣と魔法の世界よ、すごいでしょ」
クレハが胸を張る。
エターニアにとっては、こっちが
故郷か。
エリが恥ずかしそうに頬を染めつつ、小さい声で言う。
ちょっとだけ中二的な自覚があるのだろう。
ちなみに情報のプログラミングの授業では最初にこう書く。
言語によって細部は異なるが、こんな感じのものを入力させ、それを表示させるのが習わしになっている。
総合情報科のちょっとした遊びなのだろう。
俺は異世界へ転移したよろこびを、内心、噛みしめた。