――色々あって結局今日からいつもの仕事に戻ることになった。私の教育が大失敗したことを受け社長さんは、あの子には家事よりも錬金術の手伝いを覚えさせることにしたらしい。
あの子にはまだ謝っていないんだけど、当分近寄らないことにした。謝りに行くのも大事かもしれないけど、怖い思いをさせてしまった以上はそれを思い出させないようにする方がいい。
そう思っていった、はずだったのだが。
「これから食事会に出かける。シャロを連れてきてくれ」
――社長さんの発した言葉、それは実質上の謝りに行けという命令であった。
「困ったもんだよ。明日は休みだよって言った途端に寝坊なんかしてさ。もうお昼前なんだぜ。頼むから起こしに行ってくれよ」
距離を置くことを考え始めたばかりで、こうなるのか。気持ちとしては他の子に任せたいけど、社長さんが直接指示を出した以上は私が行くしかないか。
分厚くキレイな木材で作られた扉、そのドアノブを握り開く。
汗が作り出す独特の湿気が、部屋から流れ出てきた。まだシャロは眠っているみたいで電気も付けていない。
昨日はそうとう夜更かししていたみたいで、ベッドの脇には酒ビンとおつまみの皿が置いてある。そして、近づくほどに汗と酒の臭いが強くなっていく。
いくら安物とはいえ、三本も空になっているじゃない。昨日の間にどんだけ飲んだのよ、この子……
「――今何時だと思っているのよ、このバカ! 早く起きなさいよ!」
ベッドまで迫って、叫んだらやっと起きた。
――もう、せっかく社長がご飯に誘ってくれたのに。
「もうお昼ご飯の時間まで一時間もないわよ! 早く準備しなさい!」
「……あんなにたくさん飲んだ割には、驚くほどしっかり起きたわね」
ハァ、白々しく何を言っているのだか。
「ビンが転がっているのを見たらわかるに決まっているでしょ!」
いつ倉庫にあることを知ったのかはわからないけど、あんなにも勝手に盗って……あんだけ横領しちゃったら普通なら始末書じゃすまないわよ。
「……社長さんには内緒にしてあげるから。これでこの間殴ったことチャラにしなさい」
――我ながら、なんて小賢しい謝り方だろうか。ひとまずこの子が勝手に飲んだビンは始末して、早く連れて行こう。