エピソードゼロ 誓いの日は主人公とは異なる人物が視点人物になります。
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今日から新しい子が入る、社長さんは唐突に言った。
私達は人材派遣で送られてきたメイドだ。ここにいる社長さんはあくまでサービスを受けるお客さんであり、私達の事業所から見れば顧客の一人である。
事業所からそんな連絡は来ていないし、仮に来ていたら社長さんよりも先に私達が知るはずの情報だ。つまり私達のところとは全く関係ない外部から新しくメイドを雇うということになる。
私がメイド長である以上、選ばれるのは必然だったのだろうか。でも外部から入ってくるメイドに仕事を教えろというのは、明らかにサービスの対象範囲外。
「……その子はどういう子なのですか? 状況によっては重大な契約違反になりますよ?」
「いや、俺個人の都合で雇う子だから。個人的理由で奉公に出される子と思ってくれ」
私達の合意を得ずに同業他社と新たに契約するのは、明確に違反行為だ。話を聞いている限りだとそうではないが、どちらにせよ本部の相談なしでは決定できない話になる。
社長さんは成人している弟がいることを除けば独り身で生活している人であり、ご子息ご令嬢の教育をサービスに含むプランでは契約されていない。それを私だけに急にやれというのは、個人規模の契約の範囲ではあるものの充分違約金発生の対象範囲だ。
「……追加料金は高くなると思いますよ。それでもいいですか?」
「構わんさ。お金さえ出せばやってくれるってことだろ?」
――我ながら、悪手だった。お金持ちの人に対して料金増加の話を持ち出しても、脅しになんかなるわけがなかった。
それから事業所に電話したところ、私が予測した通り追加料金の受理が確定した。そしてとうとう今日に、その新しく入る子が来ることになった。
社長さんは朝から一人で出かけてしまったが、どうやらその子のお迎えに一人で出ていったらしい。ひとまず帰ってくるまでは、いつもの仕事を続けても問題なさそうだ。
いつ帰ってきても大丈夫なように、まずは玄関の掃除から始めよう。
――お昼休みの手前になって、やっと馬車が帰ってきた。社長さんが連れているのは、確かに女の人――どうやら本当に来たらしい。。
後ろについてきた女の人――見た限りは私と大して年の変わらない子のようだが……手の甲に何か変なものが見える。
近づいて確認すると、そこには社長さんの所属する錬金術師協会の紋章が確かにあった。
「この子が君の教育係のヴェロニカちゃんだよ。ほら、挨拶して」
――彼女の手の甲に刻まれた紋章、それはホムンクルスの証であった。