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少年賢者アルム・サロクの事件簿 ~小さい天才は謎を相手に無双する~ 【魔法陣殺人事件】編

屋敷に鳴り響く爆音
 パーティーが始まるまでに散策する時間はあったが、あの嫡男がうろついている以上、あんまり外に出る気はしない。俺は部屋の中で待つことにした。

「ねえ、パパ?」
「何だ、リリー?」
「なんでホルムス卿はパパを指名したんだろうね? こんなの、別に誰でもいいじゃん」
「ああ、ランベルト侯爵は辺境伯だけど、高名な魔術研究者でもあるからな」

 ホルムス卿は魔術に関しての知識があるとは言えない。だから恐らく、知り合いで一番魔術に詳しいであろう俺が選ばれたのだ、と、俺は推理していた。

「有名な魔術師さんなの?」
「まあ、そうだな。有名なのは【増幅魔法陣】かな、やっぱり」
「ぞーふくまほーじん?」

 この世界のあらゆるものには、魔力が宿っているという。魔力は単なるエネルギーに過ぎないが、それに手を加えて加工することで、【魔法】という現象を起こす。この一連の流れを魔術という。要するに魔術とは学問の名前なのだ。

 そして【魔法】を使うための基礎の基礎として最初に習うのが、【魔法陣】。魔法文字で書かれた計算式のようなもので、これに魔力を流し込むことで【魔法】が発動するというものだ。

「そんで、先代のランベルト侯爵は、この【魔法陣】で画期的な発見をしたんだよ。それが、【増幅魔法陣】」

 これは通常の魔法陣に特別な魔法文字を足すことによって、従来の【魔法】よりも強力にすることができる――――――つまり、魔力変換の効率化に成功したのだ。

「それ、凄いの?」
「当たり前だろ! 30年前には革新的な技術と言われてたんだぞ」
「……パパ、その時生まれてないよね? 本の受け売りだよね?」
「別にいーんだよ。……それで、一躍時の人になったわけだな」
「へえー」

 自分で聞いたくせに、リリーはあんまり興味がなさそうである。彼女も、学問的なことよりも、身体を動かす方が好きな直観派だった。

 こうしてランベルト侯爵の話は終わり。俺たちは夫人からもらったお菓子をつまみながら、のんびりとパーティーが始まるのを待つ。

(……はあ、穏やかだなあ……)

 本を読みながら、お菓子を食べて、ふかふかのベッドで寝転ぶ。この生活の、何と贅沢なことか。一応冒険者として登録している以上、魔物退治に行ったりもするのだが、そういう時は大抵野宿だったりするので、まともに休まらない。

 そう考えるとこの依頼は、随分とマシなものである。マーカスは嫌だけど。

「―――――――失礼いたします。アルム様」

 うつらうつらとしていたら、ドアをノックされた。扉を開けると、見覚えのある女性が立っている。確かメリナという名前の、巨乳のメイドさんだ。

「パーティーの準備ができましたので、ご案内いたします」
「ああ、どうも」

 部屋の外に出ると、他にも何人か賓客がいた。どうやらメイド一人当たりが何人かを連れて行くようだ。

「おや、先ほどの悪魔使いの……」
「あ、さっきはすみません。うちのリリーが……」
「いやいや。爽快でしたよ。ははは」

 賓客のうちの一人のおじさんが、そう言いながら笑う。その顔に、俺は見覚えがあった。ランベルト侯爵と同じく、高名な魔術学者だ。
 というか、賓客のほとんどがそうである。並大抵の学者では及ばないような人たちが、談笑しながら会場に向かっていた。

(ひゃあー、すごいな、これは)

 ……確かにこれならホルムス卿より俺が来た方が良かったな。

「……先ほどは申し訳ありません。マーカス様が……」
「いや、むしろこちらこそ、ごめんなさい。蹴っちゃったし」
「しかし、マーカス君か。昔はあんな感じではなかったんだけどなあ」
「知ってるんですか? あの人の事」

 隣でぼやいていたおじさんに、俺は思わず尋ねてしまった。

「ああ、君くらいの年齢のころに会ったきりなんだけどね。人懐っこくて、使用人にも優しい、良い子だった記憶があるんだが。大人になるとは悲しいねえ」
「……はい、本当に」

 おじさんの言葉に、メリナも口をぎゅっと結んで頷く。どうやら彼女も昔のマーカスを知っているらしい。同い年くらいだと思うが。

「お姉さんはいつからここにいるんですか?」
「私は、屋敷近くの村から奉公に来たんです。それこそ、20年くらい前からかしら。主なお仕事は、マーカス様の遊び相手でした」

 なるほどね。要するに幼馴染って奴か。

「しかし、使用人の数が随分と多いな。先代のころは、半分くらいしかいなかったと思うが?」
「現ランベルト侯爵に代替わりしてから、収益が増えたんだそうです」
「そうかあ。あんな新館を建てられるくらいだものなあ」
「あの新館も、マーカス様が成人した記念として、侯爵が提案したものなんですよ。内装や工事の管理などは、マーカス様自身が行いました」
「へえ。そりゃ大したもんだ。一つの事業を手掛けたってわけか」

 おじさん方とメリナの話を聞きながら歩いていると、同じくしよう人に連れられた賓客たちと合流していく。
 そして俺たちはいよいよ、パーティー会場である旧館大広間へと案内されることになった。

*****

「皆様、ようこそおいでくださいました。わが父の、30回忌の記念式典へ!」

 会場に賓客が全員入ると、挨拶に出てきたのは小柄でちょっとぽっちゃりなおじさん。この人こそが、現ランベルト侯爵のギルバーツ・ランベルト卿だ。後ろにある先代の肖像画はすらっとしたのっぽの老人の柄なので、本当に親子なのか怪しいところである。

「父は高名な魔術研究家としても名を馳せておりました。その縁で、魔術に造詣の深い方々にもこうして出席いただき、父も喜んでいるでしょう。故人を偲ぶ催しではございますが、皆様にはぜひ充実した時間をお過ごし願いたい。では、乾杯!!」

 かんぱーい、という音頭とともに、賓客たちは一斉に談笑を始める。
 ……なるほどね、30回忌とは名ばかりの、知識人の交流会ってわけかい。

 俺とリリーは会場の隅っこに陣取り、用意されていたケーキを食べていた。フルーツケーキのようで、ほんのり甘みが口に広がってくる。

「美味しい! このケーキ!!」
「くぅ~、やっぱりこのケーキは美味いなぁ」
「紅茶、もらえるかしら?」

 会場のあちこちからも、このケーキの評判が聞こえてくる。
 チラ見して見ると、あのマーカスですらも美味しそうにケーキを食べていた。彼がいるのはランベルト家専用のスペースで、その隣で両親も紅茶を飲んでいる。

「……ふーん……」
「パパ、どうしたの?」
「いや、別に?」

 俺はケーキに入っていた果物を口に頬張ると、ほんのりした甘みを堪能していた。

「あのう、君があの、アルム・サロク君かね?」
「例の、「賢者の里」の生き残りという……」

 フルーツをもぐもぐしていると、おじさんやおばさん方が寄って来た。誰もかれも皆、魔術研究に一家言ある人たちばかりである。

「……そうですけど」
「そ、そうなんだね。あんな事故があって、大変だったろう?」
「まあ、そうですね……」

「可哀そうにねえ。まさか、【故郷が一晩で消えてしまう】なんて!」

 そう。俺の故郷「賢者の里」は、ある日突然跡形もなくなってしまったのだ。
 幸いなことに、俺はその時よその学園に留学していたので、巻き込まれることはなかった。だが、両親も、親しかった人も、みんな消えてしまった。

 ――――――以来俺は、その謎を解明すべく、冒険者として暮らしている。

「君が良ければなんだが……私の養子にならないかね? 学問の研究も、いくらでも費用は心配しなくていいから」
「いいえ、私の娘の家庭教師になってくれない? もちろん、住み込みで」

この人達は恐らく親切半分、下心半分くらいだろう。身寄りのない子供を引き取り、それが賢者なら悪くないどころか大当たりだ。

「……ご提案は大変ありがたいのですが、私の身元は今、ホルムス卿の下にありますので。まずは卿へお話を通していただければ」

 失礼します、と頭を下げると、俺はリリーの手を取ってそそくさと場所を変える。

「「……げっ」」

 そこには運悪く、家族から離れてきたマーカスがやって来たところだった。

「お、お前……!」
「う〜〜〜〜〜〜っ!!」
「リリー、やめろ!」

 唸り出すリリーを宥めながら、マーカスを見やる。さっきまでよりは、幾分かおとなしそうだ。ケーキのお陰だろうか。今もケーキを手に持っているのを見ると、相当お気に入りらしい。一口食べると、口をとがらせて味を堪能している。
ケーキを食べ終えたマーカスはボリボリと顎髭を掻くと、俺の隣に寄りかかった。

「……客のジジババどもが言ってた。お前、親なしなんだってな」
「まあ、そうですけど」
「テメェを見てると、腹が立って仕方ねえ。親なしで不幸のドン底です、みたいな面しやがって」

 もしかして、俺は喧嘩を売られている……?

親がいるからこそ不幸、ってこともあるのによぉ。テメェの面……呑気にしてたガキの頃の俺を思い出して腹立って仕方ねえんだよ」
「親が、いるから……?」

一体どういう事か、聞き返そうとしたとき。

「マーカス坊ちゃ〜〜〜〜〜ーん!!」

ドスンドスンと音を立てて、太ったおばさんが駆け寄って来た。メリナと同じメイド服を来ているので、メイドなのは間違いない。

「こんなところに! 旦那様と奥様がお呼びですよ!」
「フジノ……少し放っておいてくれ。気分が悪いんだ」
「なりません! 今日のパーティーは、坊ちゃんが正式に侯爵を継ぐ事を知らしめるためでもあるんですから。他の領主様にもお顔を覚えてもらわないと!!」

 さあさあ、とフジノはマーカスを引きずって行ってしまう。
 リリーはドヤ顔で「いい気味」とほくそ笑んでいたが、俺はどうにもそんな気分にはなれなかった。

*****

 パーティーの前半は終わり、主要メンバーのお色直しを経て、パーティーは後半に差し掛かっていた。ケーキなどのお菓子ではなく、豪勢なディナーが中心となっている。
 俺もそうだが、リリーも、豪華な料理に舌鼓を打っている。ベイカーンの酒場の料理は、美味しいには美味しいのだがここの料理のように品がない。

「ふわあああああ、このお肉ホロホロだよ……!」
「煮込み方が上手いんだな。あとでコツを聞いて、マスターにも作らせよう」

 そんな風にメモを取りながら料理の味見をしていると、周囲がざわついていることに気づく。

「マーカスの奴、まだ戻っていないのか!?」
「ええ、そのようです。新館中を探したのですが……」

 侯爵と夫人、そしてさっきマーカスを連れて行ったフジノが、焦ったように話している。内容を聞くに、とっくに戻ってくるはずのマーカスがいないらしい。

(……なんか、引っかかるな……)

 さっきマーカスが別れ際に言っていた言葉が、ちょっと気になる。
 親がいるからこその不幸……。一体どういうことなのか。

「パパ、食べないの?」
「あ、おい。持って帰るんだから、全部食うなよ!」

 ほっとくとリリーが全部食べてしまいそうなので、俺は慌ててタッパーを取り出して、料理を片っ端からしまい始めた。……もちろん、セバスチャンの許可は取ってある。

「えー、ただいま、我が息子のマーカスがまだ戻ってこないようでして……僭越ながら後半の乾杯の音頭も、不肖このギルバーツが取らせていただきます。では皆様、グラスはお手に取られたでしょうか? ――――――では!」

 侯爵はワインの入ったグラスを掲げ、全員に促す。俺たちもそれに倣って、グラスを持ち上げた。ちなみに俺達2人はフルーツジュース。

「―――――――乾杯っ!」

 ――――――宣言と同時、それは起こった。

 ドカァァァ――――――――――――――――ン!!!!!!!!!!!!

 盛大な音と同時に、旧館が大きく揺れる。あまりの振動に、テーブルに乗った料理はいくらか落ちてしまい、音に驚いた何人もの人が、慌てて転倒してしまったほどだ。

「な、何だっ!?」
「どうした、何があった!?」
「た、大変ですっ! 旦那様っ!! 奥様っ!!」

 旧館の大広間にいた俺たちのところへ、セバスチャンが血相変えてやってくる。

「セバスチャン、何事だ!?」
「し、新館です! 新館で突然、爆発が!!」
「新館だと……!?」

 侯爵たちが慌てて、大広間を飛び出していく。俺たちも、とにかくひとところにいたくなかったので、一緒に移動した。

 そして、中庭に出た俺たちが見たものは……。

「あ、ああ、あそこは……!!」

 侯爵が真っ青になって、その場に崩れ落ちる。ごうごうと燃えているのは新館の最上階である3階の、真ん中あたりに位置する部屋だった。

「あの部屋、何の部屋なの!?」
「あ、あそこは……!!」

 近くにいたメイドに問いかけると、予想だにしない答えが返ってくる。

「――――――あの部屋は、マーカス様の、書斎だわ……!!」
「……マーカスさんの!?」

 再び上を見上げると、燃える部屋から何かがひらひらと落ちてくる。真っ黒に燃えて焼け焦げているが、それは袖の切れ端。

 その袖は間違いなく、先ほどまでマーカスが来ていた衣装の袖だ。

「これは……マーカスの……!!」
「ぼ、坊ちゃん……!! ああっ……」

 落ちてきた袖を見やり、侯爵は開いた口が塞がらない。メイド長のフジノは、気を失って倒れてしまう。

「ま……マーカス―――――――――――――――――――っ!!!!」

 夫人は顔を覆って、その場に泣き崩れてしまう。 
 あまりにも悲惨な光景に、俺達賓客はただ、燃え続ける部屋を眺めるしかなかった――――――。 
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